清和女子中高等学校。創立113年の高知県の私立女子校。キリスト教主義の中高一貫校です。
2021/02/02
先週のチャペルクリスマスでは中2が『バブーシュカのおくりもの』という劇をしました。
原作はロシアの絵本で、バブーシュカという名前のおばあさんが、馬小屋で生まれたイエス・キリストと出会う物語です。
聖誕劇でおなじみの、新しい王の誕生を告げる天使や、遠い国から星を追いかけてやってきた博士、羊飼いの少年などが登場し、聖誕劇のアナザーストーリーとも言えるお話になっています。
私はこのお話を通して大きく3つのメッセージを受け取りました。
1つ目は、愛は増えるということです。
物語終盤の重要なセリフとして、マリアの次の言葉がありました。
「あなたが愛をこめてみんなにあげたのは、私たちの赤ちゃんにしてくれたのと同じことなのですよ」。
バブーシュカは道の途中で泣いていた女の子や凍えそうな羊飼いの少年に、持っていた人形やショールを愛をこめてあげました。
人形やショールは贈り物にするつもりのものでしたが、バブーシュカの手を離れます。
この時点では損をしているように見えたバブーシュカでしたが、最終的には、もっと価値あるものを手に入れることになります。
「愛」、「相手を大切に思う気持ち」は、あげたら減ってしまうようなものではなく、あげればあげるほど増え、思わぬ形で自分に返ってくるということを、この物語は伝えていると思います。
2つ目は、当たり前を手放した時に大切なことが見えてくる、ということです。
この1年で世界は大きく変容し、当たり前だと思っていた様々なことが当たり前ではなくなりました。
その中で、これまで大切だと思っていたことについてもう一度よく考え、いま一番大切なことは何か、時世に左右されない価値は何かということに目を向ける思考が鍛えられてきたように思います。
当たり前の中に埋もれていた大切なものを見つけた時、バブーシュカはそれを大切に抱きしめました。
当たり前をやめたり変えたりするのは、勇気のいることです。
それを静かに受け入れたバブーシュカの素直さを見習いたいと思いました。
3つ目は、心の穴を本当の意味で満たしてくれるのはイエス・キリストの愛だ、ということです。
物語の初めに描かれるバブーシュカ最大の特徴は、掃除ばかりしているということでした。
一日中、とにかく動き回って掃除をしている理由は、「心にぽっかり穴が開いていて、じっとしていると悲しい気持ちになってしまう」からです。
バブーシュカは傍から見れば、元気に動き回る活発なおばあさんですが、心には誰にも言えない弱さや悲しさ、つらい過去の痛みを隠し持っていて、人に見せないようにし、また、自分でも見ないようにしていたのです。
私達もそのような穴を何かでまぎらわそうとして、音楽を聴いたり、好きなことに没頭したり、美味しいものを食べたりしているものです。
バブーシュカの心の穴を満たしてくれたものは、イエス・キリストの愛でした。
「新しい王様」とはどういう意味なのか、深く考えていなかったと思います。
それでも、抱き上げた赤ちゃんから、他とは違う何か、言葉にできない何かを感じ取っていました。
それがじわじわとバブーシュカの心を満たしていったのです。
人には見せない心の穴を分かってくれて、それでよいと受け止めてくれて、本当の意味で満たしてくれるイエス・キリストとの出会いは、バブーシュカにとっては馬小屋でのものでしたが、みなさんにとってのこのチャペルでの礼拝の時間だといえます。
高校3年生の皆さんは、卒業を控えた最後の1週間を迎えました。
みなさんが毎朝の礼拝を通して、言葉にできない何かを心に受け取ったことがあるとしたら、それは神さまの愛があなたに届いた瞬間だったのかもしれません。
清和で受け取ったものをバブーシュカのように、どうぞ大切に抱きしめて、卒業していってください。
そして、愛をこめて他の人に分け与えることで、受け取った愛をどんどん増やしてください。
卒業していく高校3年生も、見送る私たちも、与えられたこの1週間を、心を込めて過ごしたいと思います。