清和女子中高等学校。創立113年の高知県の私立女子校。キリスト教主義の中高一貫校です。
最近英語の4技能のことがよく話題になります。4技能とは、listening(リスニング)、speaking(スピーキング)、reading(リーディング)、writing(ライティング)のfour skillsの直訳です。
具体的には、英語の「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つのコミュニケーション能力のことをいいます。
グローバル化のなかで、英語を読んで書くことはできるけれど、「聞けない」、「話せない」では世界で通用しないと盛んにいわれます。
そこで使える英語を教えるために4技能がクローズアップされているわけです。
ところで私たちは何語で物事を考えているでしょうか。
頭の中で使う言葉をシンキングランゲージといいます。日本人なのにそれが英語の人はまずいません。ほとんどの人の頭の中は日本語が働いています。つまり、英語の力をつけるためには、その前提として日本語がうまく使える必要があります。
上手な日本語を使えるようになるために一番有効なのは本を読むことです。
たくさんの本を読むことによって、どのような表現を使うのがよいのか、この場合にはこういったらダメということを学びます。
ところが、今多くの人が本を読む時間を失っています。
最も大きな原因はスマホです。
今までなら本を読んでいた時間をスマホに取られてしまっています。
スマホを一時も手放せない人が増えています。
電車に乗るとたいていの人はスマホの画面を見ています。
それでは英語どころか、日常生活の中で当たり前に使っている日本語がうまくなるはずはありません。
今その人がその人らしい日本語を使えるようになることが求められているのです。
ミヒャエル・エンデの作品「モモ」は時間貯蓄銀行に自分の時間を取られてしまった人たちを助けるために、モモがそれを一生懸命取り戻すというファンタジーです。
時間貯蓄銀行の正体は時間泥棒です。
時間泥棒はファンタジーやお話にでてくる空想の存在ではありません。
スマホは現代の時間泥棒といえます。
しかも多くの人が自分の時間をスマホに奪われていながら、そのことにほとんど気づいていません。
また、人間関係がうまくいかず悩む人が増えていますが、その原因の一つがスマホといってもいい過ぎではありません。
清和は1学期の期末テスト後に夏期特別プログラムを行います。
今回は「聞く」「話す」「読む」「書く」という日本語の4技能について集中的に学んでもらうことにしました。
同時進行で高校は小論文講座と牧野植物園へのフィードバックを実施します。
中学はサマーキャンプに出かけます。
日本語の4技能で特に大切に考えたいのが書くことです。
書くとはペンや鉛筆で紙の上に文字や言葉を並べていくことです。
今はキーボードを打って文字にしていくことが多いので、動作としては書いていませんが、しかしそれも書くことです。
つまり書くことの目的は、文字を見て書いたり写したりすることではなく、自分の考えを見える形にしていくことです。
書くことによって、自分が何を考えているのか、どのように理解しているかがわかります。
書くことを通して自分の内面を発見することも多くあります。
そういう意味で書くという作業はとても大切なことです。
夏期特別プログラムでは、まず本を読みます。
読んだ本について、その本の作者がどのような思いをもって書いたか、読む人に何を伝えたいかを考えます。
そこには正解という考えはありません。
あくまで自分がどのように感じたか、どのように受けとめたかが大切です。
聖書科がスタートを受け持ちます。
その後、高校は国語科が担当します。
読むということは、文字や言葉を通して、広い世界を感じることです。
そして文章を書いた人と対話をすることです。
繰り返しますが、夏期特別プログラムの目的は「正解」「正しい答えは何か」を見つけることではありません。
絵を見る時、音楽を聴く時、それを正しく聞く、正しく見る、といった正解を見つけようなどとは考えません。
それと同じです。
正解について、絵本作家の五味太郎さんが「正しい暮らし方読本」の中で教えてくれるのは「正しい」は「楽しい」です。
正しいという言葉を通して、本当の「楽しい」を伝えようとしているのです。
これを実感してもらいと願っています。
人に与えられたもので最高の能力は言葉です。
ヨハネによる福音書に言葉のすばらしさについて次のように書いています。
「初めに言があった。言は神と共にあった。万物は言によって成った。成ったもので言によらず成ったものは何一つなかった」
夏期特別プログラムで具体的に行ことをもう一度整理します。
高校は一人に物語を1冊渡します。
中学生は絵本を電子黒板とタブレットで読みます。
時間的制約があるので、読むにあたって一般的な知識や物語の背景について、レクチャーを受けます。
学年によって、その小説のシチュエーションを体感してもらいます。
読む時には筆記用具をもって、ハッとさせられた言葉やフレーズに線を引いていきます。
コメントを余白に書いておきます。
それを繰り返しながら、主人公に寄り添いつつストーリーを辿っていきます。
読み終えたら、引いた線やコメントを見直しながら、物語をどのように受けとめたのか。感性を揺さぶられた箇所を中心にレポートを書きます。
ここまでの作業はインプットです。
ここから本当の書く作業、アウトプットが始まります。
今回はその物語のすばらしさや感じてほしいこと、伝えたいことを、作者に代わって行います。
周囲の人にこの本をぜひ読んでほしいと言葉にすることをブックプレゼンテーションといいます。
聞く側がその本を読んでみたいと関心を持ってもらうためには、わかりやすい言葉にする必要があります。
そこでコピーライターになったつもりで言葉を選び出します。
たとえば今年度の清和のキャッチコピーは「清和のいちばんは 一人ひとりの生徒を集団ではなく 個人で見てくれることです」。
これによって清和がどのような学校か、1人ひとりをどのように受けとめようとしているかを、読んだ人が考えるようになります。
8月24日にはイングリッシュオープンスクールを行いますが、キャッチコピーは「清和の英語を体験してください。英語の清和を体感してください」です。
このフレーズには清和が英語をどのような形で大切にしているかを知ってもらいたいとの願いが込められています。
ブックプレゼンテーションの文章を3分程度にまとめます。
さらにそこにもう一つ課題を加えました。
ここからは英語科が担当します。
日本語のブックプレゼンテーションを英語にすることです。
そうすると英作文は苦手と考える人がいます。
それは正しい英作文、文法的に間違いのない英語の文章を作らなければならないと考えるからです。
ここで大切なのは、自分の思いを相手に伝えるためには、正しい云々ではなく、その人の思いがストレートに出ることです。
場合によっては、このことを伝えたい、ここをわかってほしいとの思いや願いを相手に感じてもらうためには、正しく整ったフレーズより単語を並べていく、重ねていくことの方が有効は場合が少なくありません。
そこを大切にすると、日本語の文章も整ったということよりは、相手に思いをどのように伝えるか、そのためにはどのような言葉を選び出すかがよりはっきりしてきます。
各学年の英文の中から1つずつを選び、8月24日のイングリッシュオープンスクールでイングリッシュブックプレゼンテーションしてもらいます。
以上がオーガニックエデュケーション(有機的教育)による夏期特別プログラムの内容です。