礼拝の話

2022/11/30 

11月28日(月) 聖書 ルカによる福音書 2章8~12節 校長 小西二巳夫

イエス・キリストの誕生を書いているのはマタイとルカの2つの福音書ですが、読み比べてみると、いくつもの違いがあることがわかります。

マタイによる福音書は系図から書き始め、イエスがユダヤ社会を変える力を持ったダビデの後継者であることを詳しい系図を書くことによって証明しようとしたのです。

その考えがイエスの誕生の場面にも表れています。

マタイのイエス・キリストの誕生の場面には東方の占星術の学者たちが登場しますが、彼らはペルシャという大国の身分の高い人たちで、長い旅をして生まれたばかりのイエスに黄金などの高価な贈り物を贈るために持ってきました

マタイはこのエピソードによって、イエス・キリストが権威ある存在であること、ダビデ王のような力を持った強い存在であると言おうとしたのです。

ところがルカによる福音書のイエス・キリストの誕生の書き方はマタイのそれとははっきりとした違いがあります。

ルカは多くの人が知っている家畜小屋の飼い葉桶の中で誕生したと書いています。

そして、イエス・キリストの誕生の場面に呼ばれたのは野宿をしていた羊飼いでした。

羊飼いは当時のユダヤ社会ではまともな存在として扱われなかった人たちです。

マタイとルカのイエス・キリストの誕生についての書き方はこのように違いますが、それはどちらが正しいどちらが間違っているということではなく、両方を考えあわせることで、クリスマス、イエス・キリストの誕生が、今の私たちにとってどのような意味を持つのか明らかになってくるのです。

イエスが生まれたのが夜であることは、マタイとルカも同じです。

昼間ではなく夜に、イエス・キリストという人々が待ち望んでいた救い主が生まれたということに意味があります。

昼と夜、どちらが不安な気持ちや怖く感じるかというと、たいていそれは夜です。

2000年前の夜は今と違って、まさに暗闇が支配する時間でした。

イエス・キリストが生まれる頃のユダヤは人々にとって暗黒の時代でした。

ただ、同じ夜に生まれたと書いているマタイとルカですが、違いもあります。

マタイはイエス・キリストを暗闇、暗黒の時代を昼間のようにパッと明るく変えてくれる太陽のような存在と考えたのに対して、ルカは夜を昼のようにパッと明るくしてくれる救い主が誕生したというような書き方はしていません。

ルカはユダヤ全体のための救い主が誕生するとは書いていますが、続きの言葉で、飼い葉桶の中に寝ているイエス・キリストを見つけるが、それはあなたがたへのしるしであると付け加えています。

この場合の「あなたがた」は文脈から考えて、存在そのものがないがしろにされている、人として当たり前の権利が奪われている羊飼いと受けとめることができます。

そして羊飼いと同じような立場に生きる人たちと考えることができます。

その人たちのために、イエス・キリストが誕生したと、ルカは書いているのです。

ルカは太陽のような強い光ではなく、暗い夜をそっと照らし導いてくれる月のような存在として、イエス・キリストが誕生したことを伝えようとしたのです。

月の光には太陽のような力強さはありません。

月の輝きは暗さの中で一人ひとりの心の中をぽっと明るくしてくれる小さな光です。

月のように、一人ひとりの心の中に小さな光と希望を与えてくれる存在にこそ、本当の救いをもたらす、それにしっかり気づきたいのです。

それによって今年のクリスマスが大きな意味を持ったものになります。

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