礼拝の話

2023/02/20 

2月16日(木) 聖書 マタイによる福音書 2章18節 日本キリスト改革派 山田教会 高内信嗣牧師

20世紀ドイツを代表する美術家・彫刻家ケーテ・コルヴィッツさんをご紹介したいと思います。

彼女はドイツ帝国からヴァイマル共和国、そしてナチス・ドイツという激動の時代を女性として、母親としてのまなざしで、戦争の悲惨さを見つめ続け、作品を通して訴え続けた芸術家と言えるでしょう。

第一次世界大戦が勃発し、ドイツ全体が祖国を防衛する熱気に包まれていく中、ケーテの長男ハンスに動員がかかり戦場に赴くことになり、さらに次男のペーターも志願兵になることを熱望し、両親に許可を迫りました。

当然、父親のカールは猛反対し、ケーテも愛する息子を戦場に行かせたくありませんでした。

しかし自国のために戦う意志を持った次男に、同情してしまい、夫を説得して、息子を戦場に送り出してしまうのです。

そしてわずか2ヶ月余りで、息子が戦死したことを知らせる一通の手紙が届きました。

志願兵になりたいという息子を止めるどころか最後は後押しをしてしまったケーテは罪悪感にさいなまれ続けます。

そして1ヶ月後、ケーテは息子の姿を彫刻作品の中にとどめようと決心しました。

彼の死をほめたたえてやりたいという、親心から生まれた計画でしたが、制作を続けるにつれ、ケーテは行き詰ります。

祖国のために犠牲になった若者の死をほめたたえる、という目標が本当に正しいのか、ケーテの確信は揺らいでいきました。

そして5年近く取り組んできたこの制作を完全に放棄することを決めました。

そして苦難の時代を経験した者の証しとして、「戦争」という作品を制作します。

ケーテは戦争で息子を失った悲しみを背負いつつ、作品を通して平和のために戦っていく芸術家へと変わります。

そして、もう息子の姿を作品に刻むことはせず、悲しむ父と母の姿だけを刻みました。

「未来のある若者の尊い命が失われていく戦争と、犠牲者の死は決して美化されてはならない」という思いが、ケーテが苦悩の末にたどり着いた結論です。

本日読んでいただいた聖書の言葉は、イエスが誕生して間もない時の場面です。

ユダヤを支配していたヘロデ王は、イエスを憎み、ベツレヘムにいる2歳以下の幼子を皆殺しにする命令を出し、悲劇を嘆く母親たちの姿を旧約聖書の言葉を用いて表しています。

ケーテの姿とも重なります。

彼女の生き方の根幹に、幼い頃に祖父から聞いていたイエスの教えがあったと思わされます。

その後、ケーテはナチス・ドイツに反対したために「退廃芸術家」の烙印を押されました。

以前もお話ししたことがありますが、ナチス政権は、その政権にそぐわないと判断した芸術作品に「退廃芸術」という烙印を張りました。

さらにドイツ各地の美術館から作品を押収した上で、その作品を展覧する「退廃芸術展」というものを開催しました。

各作品を嘲るラベルが付けられ、多くの芸術作品が大々的に晒しものにされました。

ケーテも、「退廃芸術家」の烙印を張られ、職を失い、アトリエも失いました。

そして孫すらも戦争で失うのです。

それでも彼女は、戦争で失われる尊い命を嘆きつつ、平和の願いを込めた作品を作り続けました。

私たちも誰かの死を美化してならないと思います。

尊い命が戦争で失われるこの世界を真剣に見つめ、そして共に嘆きたいと思います。

ケーテの最後の作品のタイトルは「種を粉に挽いてはならない」でした。

命が軽んじられることがあってはなりません。

このチャペルでイエスの姿を見つめる時に、私たちもそれぞれの尊い命を重んじることができる。

その時に、この世界に愛をもたらす物語が始まっていきます。

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